「美味しいものは隠して食べる」―江戸の知恵と遊び心が詰まった『うずみ豆腐』とは?
目次
1章:うずみ豆腐をご存じですか?
「うずみ豆腐」という料理をご存じですか?

左のすり鉢に入ったご飯が、うずみ豆腐です。
えっ?? 器にただ白いご飯が盛られているだけじゃない??
そう見えたら大成功!
これは「うずみ豆腐」。
江戸時代の料理本に記された、知る人ぞ知る一品です。
参考にしたのは、『おいしい江戸ごはん』(コモンズ刊/江原絢子・近藤恵津子著)。
一見なんの変哲もない白いご飯。
しかし実はその下に、豆腐と味噌だれの “ごちそう” がうずめられているのです。
そう、「美味しいものは隠して食べる」――それが、うずみ豆腐の醍醐味。
江戸の人々は、倹約令のもと、質素に見せかけつつ、楽しみと創意を忘れない工夫を凝らしました。
この一皿には、そんな江戸庶民の知恵と遊び心がギュッと詰まっています。
物価高騰が続き、節約志向が高まる現代。
今こそ、うずみ豆腐が教えてくれる“隠れた豊かさ”に目を向ける時だと思います。
この記事では、うずみ豆腐の作り方と背景、そして現代にも通じるその魅力をじっくり紐解いていきます。
2章:うずみ豆腐とは?~歴史と由来~
実はうずみ豆腐が生まれた背景には、その当時の社会情勢、倹約を奨励する政策がありました。
江戸時代の倹約令、贅沢禁止の背景とは?
江戸時代――平和が続いた約260年のあいだ、幕府は庶民の生活を統制するためにさまざまな政策を打ち出しました。
そのひとつが「倹約令(けんやくれい)」です。
倹約令とは、贅沢を戒め、質素な暮らしを求める法令のことで、特に江戸中期から後期にかけて繰り返し出されました。
背景には、財政難や天災による飢饉、幕府の権威を維持するための意図があったとあります。
たとえば享保年間(18世紀前半)、第8代将軍・徳川吉宗は「享保の改革」として広範囲な倹約政策を実施。
着物の色柄、髪型、さらには祭りの規模にまで細かく制限を加えました。
続く天明の飢饉、天保の改革でも、同様の政策が取られます。

庶民にとって「贅沢禁止」は生活の制約でありながらも、同時に工夫のチャンスでもありました。
「見た目は質素に、でも中身はこっそり楽しむ」という文化が育まれたのです。
贅沢を隠す 江戸庶民の知恵とユーモア
こうした時代に生まれたのが「うずみ○○」という発想でした。
料理の中身をあえて“隠す”ことで、一見質素に見せながら、実は美味しいものを忍ばせて楽しむ――まさに江戸庶民の粋な知恵です。
うずみ寿司(埋み寿司)
一見白い酢飯だけの地味な丼。
でも食べ進めると、中から鯛、海老、椎茸などの豪華な具材が現れる。
備後地方や尾張地方などにも伝わる郷土料理で、「祝いごとでも質素に見せるための工夫」と言われています。
うずみ豆腐
本記事の主役ですね。
香ばしい胡麻、コクのある味噌、かつお節、くるみなど、滋味豊かな素材をすり鉢で合わせ、その上に豆腐とごはんを重ねて“うずめる”――これもまた、「贅沢をこっそり楽しむ」知恵の結晶です。
着物や髪型の工夫
料理以外にも、着物では質素に見えるように裏地だけを高級な絹にする、と言うのがあります。
日本の着物、表地は渋い色柄でも、裏地の色はハッとするような鮮やかな色が使われていることがありますね。
大正生まれの母はこの裏地選びに、お洒落さんの意地を見せていました。
「歩くときになあ、チラッと綺麗な色が見える思たらなあ、気持ちが弾むんや」
「前髪を切っているように見せかけて、実は後ろで結っている」など、見た目だけを倹約風に装う例も多くあります。
有名な「見返り美人図」がそんな心意気から生まれたなんて驚きです。

見た目は控えめ、でも中身は豊か――“粋”の美学
倹約令の時代、庶民はただ我慢していたわけではなかったのですね。
「規制のなかで、いかに楽しむか」。
そこに、現代にも通じるような「遊び心」や「逆転の発想」を見出す江戸の人々の心の豊かさを感じました。
質素を求められた時代にこそ育まれた、江戸の“粋(いき)”の精神。
表向きは簡素、でも中には自分だけが知る喜びを忍ばせる――「うずみ豆腐」は、そんな江戸庶民の心意気を味わえる一品。
作り甲斐、伝え甲斐があるというものです。
3章:超簡単!作ってみよう、うずみ豆腐(レシピ)
今回作ったうずみ豆腐は豆腐やご飯の湯通しを除き、火を使わないレシピです。
すり鉢とすりこ木を使い、すり小鉢をそのまま器として使う、超簡単、洗い物も少ない節約レシピです。
材料 2膳分
・味噌大匙1.5 ・炒りごま大匙1 ・くるみ適量 ・かつお節適量 ・わさび適量
・豆腐1/4 丁(熱湯を通しておく)
・ごはん適量(炊いたご飯に熱湯をさっとかけザルにあけておく)

ごまやくるみ・味噌や豆腐の大豆製品は簡単に手に入り、しかも現代の私たちに不足しがちな栄養素を豊富に持っている食材ばかりです。
かつお節で動物性のタンパク質も摂ることができ、わさびを利かすとアクセントが利いて「おっ!」っと美味しい仕上がりに。
作り方

1 小ぶりのすり鉢に味噌・炒りごま・くるみ・わさびを準備する

2 擦りながら混ぜていきます。

3 よく擦れたら、かつお節も加えます


4 豆腐を乗せます

4 豆腐を隠すようにご飯を乗せます

出来上がり。好みでさらにわさびを天盛にしても。
食べ方
食卓で各自、全部を混ぜ合わせて頂きます。
ご飯と豆腐をくずしながら、器の底にある味噌を好みの量やタイミングを見計らって頂く、自分仕様な味を楽しんでください。
ポイント
・味噌は固ければ少量の昆布出汁で溶いてもいいでしょう。
・豆腐は熱湯を通しておくと舌触りが良くなります。
夏場は衛生的にもおすすめします。
・わさびを利かせるのがポイント
お米の炊き方 炊き干し法と湯取り法
炊いたご飯に熱湯をかけるのは少し手間ですが、時間があれば試してみて下さい。
江戸の昔は米を炊くのに「湯取り法」という調理法が一般的だったそうです。
きりきりの水で炊くのではなく、たっぷりのお湯で茹でちゃう!
茹でた湯はこぼしてきります。
・・・知らんかったわ。
現代の私たちが知っているお米の炊き方は「炊き干し法」というのだそうです。
この茹でる「湯取り法」だと、米を茹でた後の湯をこぼすのでご飯のおねば(でんぷん質)が落ちてかなりのカロリーダウンが実現するようです!
お米の味は美味しいまま、舌触りよくさらりと食べられるそうです。

今回作ったうずみ豆腐レシピは炊き立てご飯に熱湯をかけてさっと洗いざるにあけることで、「湯取り法」の利点を取り入れ、軽やかでふんわりとした食感に。
これにより、口当たりが柔らかくなり、味噌や豆腐とのなじみもよくなります。
さらに、でんぷん質を落とすことから胃腸に負担が少なく、暑さで食欲が落ちた日にも食べやすくなるという身体にやさしいレシピです。
江戸の人々の知恵ってすごいな。
湯取り法の利点に注目して、糖質カットできる炊飯器も最近は売っているようです。
現代人の健康維持にも必要な調理法なのですね。
4章:うずみ豆腐のアレンジと季節の楽しみ方
うずみ豆腐、今回は汁がないレシピを作ってみましたが、基本は豆腐を使った汁物料理でご飯と組み合わせて頂く椀物です。
各地に郷土料理として今に伝えられています。
幾つかをご紹介します。
シンプルなレシピだけにアレンジの楽しみが広がりますね。
何を”うずめる”(隠す)か、あなたの “我が家のうずみ豆腐” をぜひ作ってみて下さい。
京都の白味噌うずみ豆腐
ネットでは、京都の「埋豆腐」「埋み豆腐」と表されています。
白味噌仕立てが特徴的で、12月最後のお茶事や精進料理として今に伝わっています。

写真のレシピはわさびではなく溶き辛子が使われています。
\\そういえば//
叔母がお仕えした尼僧寺院では、椀の底に溶き辛子を忍ばせてから汁をはっていました。
うずみ豆腐ではありませんが味噌やアクセントになる薬味などを器の底に敷いたり忍ばせたりする盛り付けが、しばしば精進料理に見受けられます。
お醤油なども上からかけるのでhなく、先に器に張ってから具材を置く。
ちょっとしたことですが見た目も食べやすさも違ってきます。
和歌山県 古座川町
法事料理として昆布と椎茸で出汁をとったシンプルなうずみ豆腐が伝わっています。

東牟婁郡古座川流域の最奥部に位置する平井集落の郷土料理、和歌山ではここでしか伝承されていないそうです。
忙しい時のおもてなしにも時短で作ることができ、さっと食べられ、体を温めてくれるうずみ豆腐。
電気やガスが普及する前の時代では飯の再加熱は手間がかかるものであり、うずみにすれば熱い汁をかけて冷めた飯でも美味しく食べられたでしょう。
広島県 福山市
福山市のうずみ豆腐は具材が豊富!
里芋、人参、大根、椎茸、松茸、豆腐、小エビ、鶏肉、鯛 !!!!
めっちゃ豪華版ですね。
うずめられた鯛や海老、山海の幸が美味しそうです。
ちらりと見える着物の裏地の華やかさを思い浮かべました。

福山市では最新では2016年に「福山うずみフェスタ」が開催された記録があり、創作うずみ豆腐も多く生まれているそうです。
うずみ豆腐レシピ集 ↓
https://www.city.fukuyama.hiroshima.jp/site/miryoku2023/292327.html
家族の好みに合わせたうずみ豆腐、ぜひ考案して楽しい食卓を作ってください。
5章:うずみ豆腐に感じる江戸の美意識
うずみ豆腐は、一見するとただの白いご飯。けれど、その下には味噌と香ばしい胡麻、豆腐、くるみなどが丁寧に隠されています。
「見た目は地味、でも中は豊か」―これはまさに、江戸の美意識「粋(いき)」を体現した料理だと思うのです。
豪華さを前面に押し出すのではなく、あえて控えめに、でも心の中には誇りと工夫を込める。
こうした「ちょっとした、秘めたる贅沢をする」遊び心は今の時代にも通じる、生き方のヒントになるかもしれません。
ミニマルな暮らし、見えないところにこだわるインテリア、ささやかな日々の楽しみ。
物質的な豊かさよりも、“どう楽しむか”を大切にする価値観が、ここにはあります。
限られた食材の中でどうおいしく、どう健康的に、どう楽しむか。
うずみ豆腐の工夫や発想には、今の私たちにも学ぶべきことがたくさん込められています。
そしてなにより、こうした料理を食卓にのせること自体が、小さな文化体験でもあります。
人々にとって「食べること」は単なる栄養補給ではなく、「生きるための知恵」「心の栄養補給」だと思います。

物価が高騰し、将来への不安がつきまとう今、
食卓にあげるのは、高価な食材や凝ったレシピではなく、“心の満足” をもたらしてくれる一皿ではないでしょうか。
豆腐やご飯、味噌、ごま、くるみ――どれも身近で手に入りやすいものばかり。
でもそれをどう組み合わせ、どう盛りつけるかで、料理の印象は大きく変わります。
うずみ豆腐には、「丁寧に食べることの喜び」が宿っています。
食べ進めるごとに少しずつ顔を出す具材たち、スプーンでほぐすごとに変化する味と香り。
食べる人が楽しめるようにとあえて“隠して”あるこの発想で、忙しい日々にこそふと立ち止まり、食を楽しむ心の余裕を見出すことができます。
うずみ豆腐は現代の私たちに、人々が年月をかけて積み重ねてきた “和食の知恵” を教えてくれる江戸料理。
一皿に込められた時代の空気に想いを馳せ、料理だけでなく、まさに日々の暮らしを楽しむひと時が味わえます。
今こそ、うずみ豆腐のような料理が求められているのかもしれません。
節約と豊かさ、工夫と遊び心。その両立こそが、本当の “豊かな食卓” なのではないでしょうか。
6章:おわりに ~食卓の改善は小さな一膳から~
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
江戸の人々が考え出した「うずみ豆腐」は、ただの郷土料理ではありません。
贅沢を禁じられた時代の中で、創意工夫と遊び心を忘れずに食を楽しむ――そんな人間らしい温もりが、器の中にぎゅっと詰まった一皿です。

目立たなくてもいい、むしろ「控えめの中に豊かさを秘める」という発想は、現代の私たちにも大切な視点を与えてくれます。
見栄えや派手さにとらわれず、自分が本当に「美味しい」と感じるものを、静かに丁寧に味わう。
その感覚があるだけで、日常は少しずつ豊かになっていく気がします。
あなたなら、どんなものを“うずめたい”と思いますか?
お気に入りの薬味、季節の野菜、家族の好物――もしかしたら、それは食材だけではなく、思い出や気持ちなのかもしれませんね。
今日の食卓が、ちいさな発見とやさしい豊かさで満たされ、明日の思い出となりますように。
そんな願いを込めて、「うずみ豆腐」という昔ながらの一皿を、現代の暮らしにそっと添えてみてください。
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