お寺のレシピ そうめんつゆ


なんだかとってもプライベートな生い立ちを書きそうですが、、、お付き合い頂ければ嬉しいです。
私の母を長女とする3人弟妹がお寺に生まれました。
大阪高槻と京都の境にあった山寺だと聞いています。

母が小学生の時両親がなくなり、お寺を出なくてはいけなかったそうです。
母はもう4年生になっており、自我が出来ているので修業は無理だろうと一般家庭に引きとられました。
母の弟と妹はまだ幼く、寺院に引き取られ、僧侶として修業を積みました。

母の引き取り先が幼い妹のことを不憫に思い何度かお手紙出したのですが、修行の妨げになるからとその手紙は何十年も文箱の中に封じられていたそうです。

同じく僧侶になった叔父が亡くなったことがきっかけで、母と叔母の再会が叶いました。
私は初めて会う尼僧様にドキドキしたことを覚えています。

叔母はまさに、生まれついての尼僧様でした。
ひたすら仏様にお仕えし、周りの人々の幸せを願い、祈り続けた一生でした。
一方、そのやさしさと可愛らしさに叔母を慕う人々が多く集い、その方たちに支えられた幸せな生涯であったと思います。

その尼門跡寺院に90年を超えてお仕えし、先代の一老(執事)様のお役目を引き継ぎ、その寺院独自の伝統を持つ精進料理の担い手となりました。

お台所で小さな体をくるくると動かし立ち働く姿が今でも思い浮かびます。
叔母が作る仏様へのお供えや行事食、普段のお寺のご飯作りをお手伝いする機会に恵まれました。

貴重な経験だったと、今になって思います。

この記事では叔母から教わった手習いの1つ、これからの季節にぴったりのそうめんつゆをご紹介します。

叔母の作るそうめんつゆ

お寺で初めておそうめんを頂いた時、びっくりしたのを覚えています。
蕎麦猪口にたっぷりと注がれたつゆは、、、深く濃い、漆に近い色でした。

関西、それも京都の尼寺でこんな濃い色の汁に出会うとは思っていなかったのです。
「たんとおあがりやす」と言われて口にすると、、、またびっくり!

見た目とは裏腹になんともやさしいお味。
甘みと深い旨味が感じられました。
飲み干せちゃうくらい。><;

叔母が仕えた尼僧寺院では独自のやり方で昆布だしをとっていました。
湯の中をくぐらせるだけの引き方とは真逆。

蓋をせずに、沸騰させずにしずかにしずかに3時間ほど。
そうすると琥珀色に輝く出汁が出来上がります。

昆布出汁
昆布出汁
3時間煮出した昆布出汁
3時間煮出した昆布出汁

ある本に、この寺院の昆布だしの取り方について書かれた行があります。

長時間煮込んだ昆布出汁の美味しさを教えてもらったのは、京都のお寺の精進料理からだった。豆腐を煮たりしたものがどうしてこんなに深い味があるのかとたずねて、昆布を長時間煮ると教えられた。
どこかで文字になったものはないかと探すうちに「京都・竹之御所風・精進のおそうざい豆腐料理」(暮らしの設計140)を見つけた。
~中略~
もう何年も前になるがこれを読んですぐに試してみた。そしてこの出汁で豆腐を長時間ことこと煮たり、焼き豆腐を煮たりしたものはなぜか極上のクリームチーズとか子牛の脳を思い出させるのもだった。
~中略~
味もつけぬ出汁自体が口に甘い感じが江戸っ子としては珍しい。しかしそれが昆布臭いかというと、すでに別の、あまり海の匂いを感じさせない、琥珀色の蒸留酒めいた深いコクのあるものに一変しているのである。京都のいわば精神的奥座敷の内部のゼイタクというのはこういうものなのかと教えられた。

自然流乾物読本 津村喬 著 農文協1992年

これに戻した干し椎茸と戻し汁を加え、溜まり醤油で味をつけたものが、叔母のそうめんつゆでした。
夏になるとお台所には大鍋にたっぷりと作られたこの汁がいつもありました。
漆黒に近い汁の中に、これもまた黒い椎茸がいくつもぷかぷか浮いていたのを思い出します。

溜まり醤油でそうめんつゆ
たまり醤油でそうめんつゆ

溜まり醤油ってどんな醤油?

東海地方の特産品である「豆みそ」をつくる過程で、にじみ出た液体だけを取り出したのが、たまりしょうゆのはじまりと言われています。
とろりと濃厚な旨み、素材を引き立てる色と香りが持ち味で、刺身や寿司、照り焼き、佃煮、せんべいなどに使われてきました。別名「さしみたまり」とも呼ばれています。
原料の特徴
一般的なこいくちしょうゆは大豆と小麦をほぼ同じ分量で仕込みますが、たまりしょうゆの原料はほとんどが大豆です。小麦を使う場合でも少量だけです。
しょうゆの旨みは大豆の成分が元になるので、大豆を多く使うたまりには旨みがたっぷり含まれます。そのうえ、健康な身体づくりに大切な大豆たんぱく質も豊富に含まれています。

イチビキ たまり醤油とは

旨味たっぷり!!
たくさん使われている大豆から生まれる旨味なんだね。
色が濃いのは熟成期間が長いからなんだ。
淡口醤油などは色を淡く保つために塩分を高めて熟成期間を短くするけど、濃い口や溜まり醤油などは塩分低めでじっくり熟成がすすむんだね。

溜まり醤油のおすすめの使い方は?

刺身 たまりしょうゆは、別名「さしみたまり」とも呼ばれていて、魚や肉の生臭みを消す作用やとろみがあるので、刺身や寿司がおいしく食べられます。たまりしょうゆの濃厚な旨みは、力強い味わいの赤身魚や、こってりと脂ののった魚と相性抜群です。

焼き物 たまりしょうゆはこいくちしょうゆと比べて糖分が多く、粘度が高いため、素材の表面にのりやすく良い照りが出ます。熱を加えると美しい赤みが増し、料理がキレイなべっこう色に仕上がります。照り焼き、蒲焼き、焼きおにぎり、せんべいなどがおすすめです。

煮物 たまりしょうゆはコク、旨みが強いため、タレやつゆにもぴったり。貝類、肉、魚はたまりしょうゆで煮ると、硬くなりにくいため、昔から佃煮やしぐれ煮にもよく使われています。

イチビキ たまり醤油とは

お寺のそうめんつゆ 材料と準備

3時間も昆布を煮出すのは大変です。
写真のように、水につけて一晩冷蔵庫に入れて作る水出しの昆布出汁や椎茸出汁が便利です。
写真左は水800㏄~1Lにだし昆布15g~20g  右は水400㏄くらいに干し椎茸2個くらい(写真は1個しか入れてないですね。><*)

水出し昆布出汁と椎茸出汁
昆布出汁 椎茸出汁 つけ始め

材料 でき上りつゆ 約200㏄ 
・昆布と椎茸の出汁合わせて200㏄ ・戻した干し椎茸と昆布
・溜まり醤油や二段仕込み醤油またはおさしみ醤油など、色は濃くても塩分の少ないもの50㏄くらい
・みりん適量 (溜まり醤油は甘く味をつけたものもあり、甘みはお好みで加減してください。)

作り方
①戻した昆布と椎茸を戻し汁ごと鍋にかけ、みりんを少し加え、椎茸が柔らかくなるまで火を通します。
(昆布が崩れそうであらば、昆布だけ途中で取り出します)

②椎茸に火がしっかり通ったら溜まり醤油を入れて、椎茸に味が含まるまで弱火で煮ます。
③冷めるまで置いておくと味が馴染み落ち着きます。

  • 昆布や椎茸出汁の代わりに顆粒だしを使うと手軽にできますが、塩辛くならないように加減してください。顆粒だしは手軽で便利ですが、昆布や干し椎茸から取る天然の出汁には特有の風味と深みがあります。

    昆布や干し椎茸のお出汁は手間がかかるように思いますが、実際の作業時間は驚くほど短いです。
    上記の写真のように、容器に昆布や干し椎茸を入れ、水を注ぐだけで実働時間は数秒で済みます。
    その後はただ時間が経つのを待つだけで、美味しい出汁が自然に出来上がります。
  • これを毎日のルーチンにすると、いつでも使いたい時に手元にある心強い基本の食材となります。
    出汁は和風料理だけでなく、シチューやカレーの煮込み、お野菜の下茹で、炊き込みご飯、スープやポタージュ、さらには炒め物に少し加えるだけで、料理がふっくらと仕上がります。
    ほぼすべての日常の調理の基本となるため、どんな料理にも応用が利きます。

    手間をかけずに簡単にできるこの方法を取り入れれば、家庭料理の幅が広がり、毎日の食卓がより豊かになります。

ちょっと盛り付けに工夫してみるとより楽しい

盛り付けに少しの工夫を加えると、作り手も受け手も幸せな気分になるものです。
ネットにたくさんの素敵な盛り付けがありますが、今回作った冷やしそうめんの盛り付けを、お寺の盛り付けも含めてお伝えしますね。

お寺の盛り付け

お盆の行事では仏様に必ず”おぞろ”(素麺)(御所で使われる言葉)がお供えされていました。

”おぞろ”をたっぷりの水を張った桶に放ち、お箸を使ってまるで天の川のように器に盛り付けていました。

宮中言葉「おぞろ」

もともと素麺は索餅(サクベイ)と言われ、宮中において儀式や饗宴に珍重されていたことは、平安時代以降の公卿の日記や女官たちの手記によって知られており、元日の宴会にも饗せられていました。
室町時代には女官たちが素麺のことを「おぞろ」と呼び、七夕の行事に素麺が饗せられていました。今も由緒ある門跡寺院等では「おぞろ」と呼ぶことがあります。「おぞろ」は素麺を一本の箸で掬い取り、折りたたむように重ねるのが作法です。

三輪素麺組合

お寺のように上手く出来ないのですが、、、こんな風です。

そうめんの盛り付け
そうめん盛り付け
そうめんの盛り付け
そうめん盛り付け
そうめんの盛り付け
そうめん盛り付け

お箸で幅広く麺をすくい、器に先端から左右に畳むように盛り付けます。
それを2~3度繰り返します。
氷水を張り、供します。

そうめん お寺の盛り付け
そうめんお寺の盛り付け

そうめん、ちょっと可愛く盛り付け

ネットで検索するとおしゃれな盛り付けがたくさんありました。
そのうちの1つ。

そうめん盛り付け一口サイズ
そうめん盛り付け一口サイズ
そうめんの盛り付け一口サイズ
そうめんの盛り付け一口サイズ
そうめんの盛り付け一口サイズ
そうめん盛り付け一口サイズ

滑りにくいお箸2本でそうめんをすくいます。
もう一方の手でクルクルと巻き付けていきます。
器に形を整えながら置いて、写真はペパーミントとクコの実をトッピングしています。

💡ポイント お寺の盛り付けと異なり、しっかり水を切ってしばらく置き、くっつきそうになるくらいのおそうめんがまとまりやすいです。

そうめん盛り付け 一口サイズ
そうめん盛り付け 一口サイズ

YouTubeにupしているお寺のそうめんつゆの動画です。

お寺のレシピ そうめんつゆ

まとめ

レシピのポイント

冷やしそうめんは、夏のどの家庭でもポピュラーな料理。
そこにほんの少しの工夫を加えるだけでその魅力がさらに広がります。

例えば調味料をいつものものとは違ったものに変えてみる。
溜まり醤油を使った漆黒のつゆと真白なそうめんの対比は、見て美しく味覚的にも新しい発見をもたらしてくれます。この美しいコントラストが、見た目の楽しさとともに、食欲をそそります。

シンプルな料理だからこそ、盛り付けや調味料にこだわることで、いつもの食卓が特別なものに!
器を変えたり、彩り豊かな薬味を添えたりすると風味が一層引き立ちます。

ぜひ、新しいそうめんの楽しみ方を試してみてください。
少しの工夫で、いつもの食卓に小さな革命を。

お寺のレシピに触れて

料理教室や種々の講座から学べることは多くありますし、目的に合わせて選択することができます。
でも叔母の作る精進料理に触れ手ほどきを受けたことは、自ら選択できたことではありません。
幸運であった、としか思えない。

仏様が料理好きの私にくださった思いもかけない貴重な経験であったと思います。

この幸運を自分の中だけで終わらせずに誰かに伝えたい、そのような想いで叔母の作ったお精進、京都のある尼門跡寺院に伝わる精進料理をご紹介する講座を開講しています。

ご自身やご家族のご希望をお聞きして、講座内容を構築致します。
対面、出張、オンラインレッスンにてご希望日に合わせて随時開講いたします。

お申込みお問い合わせはこちらから

ご要望に合わせて講座内容を設定

・あっと驚く目からウロコの乾物レシピ
・自家製干し野菜・ドライフルーツの作り方
・乾物を使った防災食 

・お寺ご飯と乾物レシピ

・グループからお1人だけでも開講
・対面またはオンラインレッスン 
・近隣へは出張レッスンも致します。

グループホーム、高齢者の方々のお住い、作業所へ出張講座いたします。

スマホからお電話はこちらより

メールはこちらより

Follow me!