乾物と野菜の力を味わう:精進出汁のしみ滋味な美味しさ
干し大根や炒り大豆など、乾物から出汁をとる精進出汁。
昆布や干し椎茸からつくるいつものお出汁と合わせると、それはそれは滋味深いお出汁ができます。
精進出汁と精進料理、お野菜の持つ力について書いています。
目次
切り干し大根の戻し汁、もしかして捨てていませんか?
以前、あるクリニックのデイケアのスタッフとして、ご利用者の方々と共にご飯づくりをしていました。
魚の煮付けや塩焼き、豚キムチや野菜炒め、ひじきの煮物やきんぴらごぼう。
特別なご馳走ではなく、どれも普段着のおかずでした。
でも、いつも いつも、毎日のことなのに、心がはずむくらい美味しくて、お箸を手に取るとワクワクしました。なぜだろう・・・・きっと、みんなで作って、みんなで食べたから。
切り干し大根を使った副菜もよく登場しました。
定番の煮物や薄揚げと合わせておみそ汁に入れたり、酢の物やサラダも人気のメニューでした。
でも、最初のころは私にあまり知識がなく、切り干し大根をた~っぷりの水で、ゆ~っくり戻して、戻したら
ぎゅう~っと絞っていました。
戻し汁は流しへながし・・・(>_<)
もったいないことをしていたなあ、とつくづく思います。
ある時、勉強のためにと思って受けた「健康調味料アドバイザー講座」で、「切り干し大根の戻し汁は大根の旨味が溶け出ていてとても美味しいですよ。おみそ汁にそのまま入れると出汁要らずです。」
と教わったのです!
料理が好きなだけで大した知識もなかった私はもうびっくり。
実際に戻し汁を飲んでみて、その甘さにもう一度びっくり!
うん、たしかに、昆布や干し椎茸のお出汁が美味しいのと同じように、
干した野菜からもお出汁がとれるんだ! とえらく感動したことを覚えています。
切り干し大根だけじゃない、乾物からとる出汁:精進出汁
「精進出汁」というのをご存じですか?
上記の切り干し大根の戻し汁のように、植物性の乾物からとる出汁です。
昆布や干し椎茸のお出汁は精進出汁の代表的なものですね。
肉や魚(鰹節や煮干しなど)を使わない精進料理で主に用いられるお出汁です。
ではその精進料理とはどのようなものでしょう。
精進料理とは
精進料理は仏教とともに中国から日本に伝わりました。
もともとは修行僧のための食事とされていて、肉や魚を食べることが禁じられています。
思うに、肉や魚は食への欲を過剰に刺激するのかもしれません。
植物であってもネギやニンニクなどの刺激性の強い野菜もその食材への欲求が強くなり、修行(精進)を妨げるため使われることはありません。
肉や魚、ニンニクなんてもう美味しくて美味しくて、修行どころではなくなってしまうのかも。
肉や魚を食べたいのは殺生をしないためとされますが、う~ん、どうかなあ・・・・
植物も生きています。
野菜が吸い上げている水の中にも微小な生物がたくさんいると思う。
生き物が生きていくためには動物であれ植物であれ、他の生き物の命をいただかずには生きていけない。
貪るか、感謝と祈りをもって食事をするか、この違いを自覚することは大事だと思います。
ちなみに、臨済宗の尼僧であった叔母は生涯肉や魚を口にすることはありませんでした。
現代のお寺事情では、多くの寺院で精進料理はお供えや行事食として供されますが、
叔母にとっては戒律を守る”お精進”の食事はごく当たり前の日常でした。
出汁のある生活
デイケアのスタッフとして食事を作っていたころは、顆粒出汁に頼りっきりの毎日でした。
だって手軽でなんでも超簡単に美味しい味がつくのですから。
でも美味しくてパクパク食べた後、のどが渇くこともあったなあ。
今は昆布や干し椎茸のお出汁を毎日使っています。
水につけて冷蔵庫で一晩、手軽に美味しく天然のお出汁がとれ、「これがなきゃご飯作れない!」と心から思わせるしみじみとした美味しさを毎日味わっています。
顆粒だしや即席出汁も美味しい。
でも美味しさの種類が違う気がするのです。
顆粒だしや即席出汁は美味しく味がつき、口に含むと「あっ、美味しい」が脳に直行して届きます。
昆布や椎茸の出汁は味をつけるというより、お野菜の持つ味を引き出している感じ。
自分の持つ味覚でこちらから探りを入れていくような味わい。
洋風の料理、シチューなども奥深いものになります。
簡単に準備できますので、是非作ってみて下さい・
精進出汁の魅力:乾物の力
切り干し大根や昆布・椎茸だけでなく、精進出汁には炒り大豆や干瓢(かんぴょう)も使われます。
ネットを調べてみましたら、小豆を入れたものもありました。
普段は昆布や椎茸の出汁を使い、特別な法要では大豆と干瓢も加えると、ある副住職さまの記事にありました。
出汁昆布 干し椎茸 炒り大豆 干瓢 干し大根、すべて乾物です。
もちろん生のお野菜からも美味しい出汁がとれます。
普段は捨ててしまいがちな野菜のヘタや皮を煮て漉して作る野菜出汁、ベジブロスですね。
野菜の切れ端などを無駄にせずにつくるけんちん汁も、お野菜から出る旨味でいただく精進料理の一品です。
動物性のものを使っていなければ生のお野菜から出る旨味でいただく出汁も精進出汁と言えるのですが、
今回は乾物ゆえに生まれている深い旨味を味わってみようと思い、昆布・椎茸・大豆・干瓢・干し大根の5種の乾物を使って精進出汁を作ってみました。
各素材の分量はざっくりどれも10gくらい。5種そろえなくても、あるものだけ3種くらいでもいいと思います。
大豆は節分の時に買った炒り豆を使っています。
干瓢は漂白されているものは塩でよく揉み洗いしてから使います。できれば無漂泊のものを。
たっぷり浸るほどの水につけ、冷蔵庫に入れて一晩かけて戻します。
一晩かけてふっくら戻っていたら火にかけます。
最初は一気に過熱し、煮立つ前に弱火にし20分から30分、煮立たせないようしずかに煮ます。
アクが出てきたら取ります。
ザルで漉した後の精進出汁です。
早速お猪口に入れでちょっと一杯。
炒り大豆の香ばしさが口中に広がりました。
出汁をとった後の具材です。
”だしがら”というにはもったいないような立派な具です。
干し椎茸の旨味をうまくとるコツ
干し椎茸には生の椎茸にはほとんど含まれていない栄養素が生まれるとよく聞きます。
調べてみました。
それはグアニル酸という旨味成分。
昆布の旨味成分グルタミン酸と出会うと、その旨味をより引き出すと言われています。
鰹節や煮干しの旨味成分イノシン酸も昆布のグルタミン酸の旨味を強く感じさせる働きを持っていますが、
干し椎茸のグアニル酸も同じ働きをするのですね。
出汁は単品でとるより掛け合わせた方がいいと言われるのもうなずけます。
でも、でも、この干し椎茸のグアニル酸、実は水に浸して初めて育成されるものなのだそうです!
干し椎茸って乾燥してヒビがいっぱい入っていますね。つまり細胞膜が壊れている。
水の浸すとこの壊れ目から細胞内の成分が溶け出してくる。
その中のある二つの成分が水中で出会うことで一方がもう一方を分解し、はじめてグアニル酸が生まれる。
でも、でも、せっかく生まれたグアニル君を壊してしまうF君という酵素も水中に溶けだしている。><;
でも、「ご安心あれ」な知識です。
グアニル君を作る酵素は熱に強いのですが、グアニル君を壊すF君は40度~60度でよく働き高い温度には弱いのだそうです。
つまり、干し椎茸の旨味をうまくとるコツは、酵素が活動しにくい低温(冷蔵庫)でもどし、その後一気に65度以上に加熱するとF君の出る幕がなく、旨味の強い出汁がとれるということです。
(参照:Z-KAI 子どもと楽しむ料理の科学 平松サリー )
精進出汁を使ったレシピの例
今回の5種の乾物精進出汁を使ったレシピを何品かお伝えします。
市販の調味料やだしの素を使うと脳に直接とどき、「おいしい!」と思わせます。
少しの手間ですが一晩かけて戻した乾物で作った精進出汁は、それぞれの乾物の旨味が深く静かに重なり合い、脳ではなく、体にしみ滋味と行きわたる美味しさです。
結び:精進出汁から学ぶもの
今回は何種かの乾物を使った本格的な精進出汁を作りました。
でも、普段の食事作りでは昆布だけでも、昆布に切り干し大根の戻し汁を加えただけでも十分に美味しいやさしい味のお出汁を作ることができます。
材料が足りないからとスーパーへ走らない、あるものでまかなう、どんな小さな切れ端でもお野菜の命をいただく感謝の気持ちをもって食事を作り頂く。
この精進料理の基本を心したいと思います。
お寺の精進料理は仏様からのおさがりや、信者様からの頂き物を工夫して使います。
その食材が高価な物であっても安価なものであっても、一片の切れ端でも上下を問うことなく平等に扱うことが大事とされています。
ものや食べ物を無駄にしない一方で、それを補うかのように、シンプルな食材にも「そんなに!」と思うくらい手をかけることもあります。
考え、工夫を凝らしたお寺のレシピを見ていると、苦労というより創造する喜び楽しみに満ち溢れています。
なんだか古い考えのように聞こえますが、よく考えてみるとこのような姿勢こそ、今の社会、すぐにやって来る食糧問題の解決に貢献できるのではないでしょうか。
身近な所では
・顆粒だしや市販の出汁のもとを買わずに済むようになる
・塩分の摂取量にいい影響がでる
・野菜本来の味を感じる力が戻って来る
・だしがらから食物繊維がたっぷり摂れるーこれはすぐに実感できる利点です。
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是非一緒に、乾物や干し野菜を使った料理を作って楽しみましょう。
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